抗HIV治療ガイドライン2014年版』が厚生労働省の関連サイトで公開されました。(2014年6月5日)

このガイドラインの中に、急性HIV感染症の治療についてのガイドラインが示されています。かなり専門的な話であり、読んだ私も全部は理解できませんでした。

まぁ、こんな治療に関するガイドラインを私やあなたが理解する必要はなく、万一の場合は専門医が詳しく説明してくれることでしょう。

従って、ここでは一般的なHIV、エイズの予防や検査の一環としての治療情報を参考程度にお読みください。

『抗HIV治療ガイドライン 2014年版』

・・◇そもそも抗HIV治療(ART)とは?


今回の主題について、いきなり結論から書きましょう。2014年版の抗HIV治療ガイドラインでは急性期のHIV感染であっても条件次第ではすぐに治療に入ることを推奨しています。

「え? すぐに治療を始めるのは当たり前では? それが何か特別なことなの?」

もしかしてあなたはこう思うかも知れませんね。確かにたいていの病気は早期発見、早期治療がなにより大事です。当サイトでも、

「HIV感染が早期に見つかればエイズの発症を防ぐことが出来ます。」

という理由で早期のHIV検査をお勧めしています。

だったら、HIV感染が分かった時点ですぐに治療を開始するのは当然じゃないのか。もたもたしてたらエイズになって手遅れになってしまう。あなたがそう思うのは当然です。

しかし、実は仮にあなたがHIV感染症だと判明してもすぐに治療を開始するかどうかは検査結果によって大きく異なるのが普通です。

なぜか?

それには抗HIV治療には他の病気の治療にはない、次のような事情があるからです。

1.抗HIV治療でいったん薬の投与が開始されるとこれを中断、中止することは出来ない。HIVが薬に対して耐性を持ってしまい、薬の効果がなくなるため。

2.しかも毎日忘れることなく決まった時間に決まった量を飲み続けなくてはならない。これは患者にとっては大きな負担になる。抗HIV治療は生涯治療となります。

3.抗HIV薬の長期間の服用による副作用として、肝機能障害、異常代謝、動脈硬化、腎機能障害、薬疹などが報告されている。

確かに医学は進歩し、かつては致死的疾患であったHIV感染症はエイズ発症を防ぐことで死亡者は激減しました。抗HIV療法は入院する必要もなく、薬を飲むことでほぼ今まで通りの生活を続けることも可能になりました。

治療費についても各種の救済処置、支援体制が用意されています。また免疫障害として身体障害者手帳の対象にもなります。

しかし、それでもHIV感染症は完治することは出来ず、生涯治療となります。いったん薬の投与が開始されると死ぬまで続けなくてはなりません。

それも先ほど書いたように飲み忘れがないよう、毎日決まった時間に決まった量を飲まなくてはなりません。風邪薬や血圧の薬と同じようにはいかないのです。

むろん、それでもエイズを発症して死に至るより治療法がなかった時代を思えば画期的な進歩だと思います。

ただ、問題はいったいいつ抗HIV治療を開始するか、と言う時期です。

あなたもご存知の通り、HIVに感染してからエイズ発症までの潜伏期間はなかり長いのです。人によって潜伏期間は異なりますが、長い人では10年以上もあり得ます。

だとすれば、HIV感染が分かったからと言って即座に抗HIV療法を開始するとは限りません。先ほども書いたように薬は患者に大きな負担になり、しかもいったん開始すると薬の投与を止めることは出来ません。更に長期の服用で副作用が出る可能性もあります。

それゆえ実際の抗HIV薬投与開始時期は、患者個々の免疫力や合併症などを考慮して主治医が決定します。このように抗HIV医療は「早期発見、早期治療」とは限らない側面があります。

ましてやHIV感染の直後、急性期に検査でHIV感染が分かった場合、治療開始の時期をどう設定するのでしょうか。


・・◇それでも急性期から抗HIV治療を推奨する理由


さて、それではやっと本題に入ります。HIV感染症の急性期の治療をどうするか?

例えば、あなたがHIV感染の可能性がある行為をしてから数週間後に微熱、咽頭炎、下痢などの症状があってHIV検査を受けたとします。そして不運にもHIVに感染していることが分かったとします。

さて、ではあなたはいったいこの先どうなるのか?どんな治療を受けることになるのか?

これがHIV感染症でなく、他の病気だったらたいていは「早期発見、早期治療」が最善策であり、医師はあなたが重症化する前に治療して治そうとするでしょう。

しかし、HIV感染症の場合はそうとは限りません。あなたの主治医はあなたの体内におけるHIVの量(HIV-RNA)、免疫力の強さ(CD4)などを調べた上で薬の投与時期を決めます。

急性HIV感染症の症状はほとんどの場合、2週間程度で自然と消えてしまうことが多く、そこからエイズ発症まで長い潜伏期間に入ります。従って急性期の症状に対して早急に抗HIV治療を開始する、といった例は多くありません。

むしろこれまでは急性期にHIV感染が分かってもすぐに抗HIV療法を開始することはなく、免疫力の目安であるCD4数が350を切ったら開始するなどの目安がありました。危険ラインになるまで、なるべく薬の投与は行われなかったのです。

では、「抗HIV治療ガイドライン 2014年版」ではどのような対処方法がガイドされているのでしょうか。

『急性期であっても抗HIV治療を開始することを推奨する。』

と書かれてあります。

何度も繰り返しますが、いったん薬の投与を始めればもう中断や中止は出来ません。その意味で抗HIV療法は患者に負担のかかる治療法です。しかも薬の副作用も心配されます。

それでも2014年版のガイドラインでは急性期の抗HIV療法開始を推奨しています。

それには、こんなメリットがあるからです。

1.急性期の症状を軽くする。(重症のケースがまれにある)

2.免疫力を高い状態で維持することができ、予後(治療後の状態)にいい影響が期待できる。

3.ウイルスの変異率が低下する。

4.他人への二次感染リスクを低減させる。

ちょっと補足しますね。まず、1番目です。通常の急性HIV感染症の症状は2週間程度で自然と消えます。しかし、中には急性期から重症の患者もいます。急性期にもかかわらずエイズ指標疾患を発症することもあるのです。

こうした場合には早急に抗HIV治療を開始して症状の軽減、回復を図ります。

2番目の理由は年々見直されてきました。あなたの免疫力を測る指標の1つがCD4という免疫細胞の数なのですが、あなたが健康なら700~1300くらいあります。

ところがHIVに感染して免疫細胞が破壊されるとどんどん低下していきます。そしてあるレベルまで下がるとそこで落ち着きます。このレベルをセットポイントと呼びます。このセットポイントが高い方が抗HIV治療には有利とされています。

かつてはCD4が350を切ったら抗HIV治療開始と言われていましたが、最近ではCD4が500を切ったら開始することも推奨されています。

更に急性期において抗HIV治療を開始すればより高いレベルでのセットポイントが可能になる、との見解です。

3番目の理由はHIVというウイルスの特性によるものです。当サイトで何度も記事にしてきましたが、HIVは容易に変異を繰り返すウイルスです。

それゆえ未だにワクチンが出来ず、治療に何種類もの薬を使う必要性があるのです。HIVが体内で長期間増殖を繰り返せば、それだけ変異を繰り返す可能性も高くなり、薬の選択もより難しくなる訳です。

そして4番目の理由。私はこの4番目の理由をぜひともあなたに知って欲しいと思います。一口に「HIV感染者」と言っても、実は体内どのくらいのウイルス量が存在するかは個人差がとても大きいのです。

もしもあなたがHIVに感染して急性期にウイルス量を測定したら、とんでもない桁のウイルス量が見つかるはずです。まだ体内にHIV抗体が生成されていないため、猛烈なスピードでウイルスが増えます。これが急性HIV感染症の原因でもあります。

当然ながら、体内のウイルス量が多い状態で誰かと性的接触を持てば、感染するリスクは高いと言えます。急性期は二次感染のリスクが高い時期なのです。

一方、すでに抗HIV医療を受けているHIV感染者はどうでしょうか。この場合はHIVの増殖が抑えられ、ウイルスの検出限界まで減少している可能性もあります。体内のHIVは極めて少量になっているので二次感染のリスクも小さくなっています。このように、同じ「HIV感染者」と言っても二次感染の可能性は随分違います。

HIV感染者本人の治療のため、という視点以外に社会全体のHIV感染リスク低減、と言う観点からも急性期の抗HIV治療開始を推奨してるのです。

以上のようなメリットから、ガイドブックでは急性期における抗HIV医療開始を推奨しています。

ただ、ガイドブックの中にも書かれているのですが、急性期の抗HIV医療開始メリットは理論的には正しいのですが、その有益性が完全に実証されるところまでは至っていないのだそうです。

しかし、日本だけでなくアメリカやヨーロッパでも急性期における抗HIV医療開始は大きな流れとなっており、今後も広がる様子です。



・・◇もはやHIV感染症は慢性疾患か?


今回、「抗HIV治療ガイドライン 2014年版」を読んでみて、改めてHIV感染症は怖いと思いました。確かに致死的疾患だった1990年代半ばまでと比べれば死亡者数は激減しています。

しかし、死に至ることがなくても完治はできず、抗HIV治療は生涯治療であり、患者に大きな負担がかかります。薬の副作用の問題もあります。決してHIV感染症が怖い病気でなくなった訳ではないと痛感しました。

HIV感染症が完治できない病気である以上、予防に徹するしかありません。でも、そうは言っても一度でも誰かと性行為を行えばHIV感染の可能性はゼロではありません。

そこに愛情があろうとなかろうと関係ありません。年齢も性別も関係ありません。誰でもHIVに感染する可能性があります。

従って予防に徹しつつもHIV検査を受けることも必要です。私があなたに言えることは、次の2つだけです。

『どうぞHIVに感染しないよう、予防にご注意ください。あなただけが特別に感染しない、安全なんてあり得ません。』

『少しでもHIV感染の不安があれば検査を受けてください。検査以外にHIV感染を確かめる方法は存在しません。』

検査を受けてから先のことは専門家でないと分かりません。

万一あなたがHIVに感染して、急性期にそれが見つかったとしたら。あなたの主治医はもしかしたらすぐに抗HIV治療の相談をあなたにするかも知れません。

その時はしっかり主治医と話し合って、あなたにとって最善の治療法を見つけてください。

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