抗HIV治療(ART)によって体内のHIV増殖を防ぐことができるようになりました。
では、完全にHIVを体内から消すことができるのでしょうか?
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1997年頃から始まったARTと呼ばれる抗HIV療法によって、HIV感染症の予後は劇的に改善されました。それまでは致死的疾患であったHIV感染症は慢性疾患に近づきつつあります。
では、ARTによってHIVを完全に体内から消すにはいったい何年かかるのでしょうか?
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・・◇ARTとは?
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HIVは非常に変異しやすいウイルスであり、そのために未だにワクチンを作ることができず、かつては治療も困難でした。
HIV感染症の予後は極めて悪く、かなり高い確率でエイズを発症し、数年のうちに死に至る致死的疾患でした。(予後=治療の経過、及び見通しのこと)
1種類の抗HIV薬ではHIVはすぐに耐性を持ってしまうので効果がなかったのです。
そこで3種類の抗HIV薬を同時に使用することで HIVが耐性を持つことを防ぎ、薬の効果を持続させることができるようになりました。
この多剤併用法の開発によって体内のHIV増殖を抑えることが可能になりました。
これを、
ART=(anti-retroviral therapy)
と呼びます。
ちなみに、以前は多剤併用法は
HAART=(highly active anti-retroviral therapy)
と呼ばれていました。(当サイトでも、一部にHAARTの表記を使っています)
これらの抗HIV薬はHIVが体内で増殖する工程を阻害してコピーを作らせないようにします。詳しくはこちら⇒『HIV・エイズの治療とは?』
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・・◇ARTの目的は?
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元々、人間の体はHIVが感染した後にHIV抗体を作りHIVを排除しようとする免疫機能が働きます。
しかし、HIVはその免疫機能の中枢細胞であるヘルパーT細胞に感染し、破壊するため、段々と免疫機能が衰えてしまいます。
そのためHIVを排除するスピードよりもHIVが増殖するスピードの方が速くなってしまい、その結果体内ではHIVが増殖してエイズ発症に至るのです。
ARTの目的はHIVの増殖を防ぎ、免疫細胞がHIVを排除するのを助け、体内のHIVを減らすことにあります。
実際に薬の効果でHIVがどのくらいまで減少したかを調べるために、HIV RNA量を測定します。詳しくはこちら⇒『HIV RNA量が示す意味とは?』
このARTが適切に行われた場合には、体内のHIV RNA量は測定限界以下となり、免疫力を復活させることができます。
しかし、それでも体内のHIVが完全に駆除できた訳ではありません。ARTを中断すればまたHIVは増殖してしまいます。
では、ARTを何年も継続して、体内のHIVを完全に駆除することは可能なのでしょうか。厚生労働省の『抗HIV治療ガイドライン』の中にその試算が掲載されています。
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・・◇HIVを完全駆除するには何年かかるか?
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HIVに限らずウイルスは細菌と異なり自己増殖の機能がありません。感染した宿主細胞の中でしか活性状態を保つことは出来ません。
従って、HIVが感染したヘルパーT細胞の寿命が来て死んでしまえば、HIVもまた不活性状態となってしまいます。それまでARTによってHIVが増殖出来ないようにしておけばいいのです。
ところが、ヘルパーT細胞の中には、メモリーT細胞という大変寿命が長い免疫細胞があります。
このメモリーT細胞の寿命は数十年と推定されており、この中に侵入したHIVがしぶとく残ってしまうのです。
前述の「抗HIV治療ガイドライン」によると、ART治療を行ったHIV感染者59人について、HIVの潜伏感染細胞半減期を調べたところ、44.2ヶ月だったそうです。半減期とはその量が半分に減る時期を意味します。
HIVの潜伏感染細胞は1,000,000個あると推定されており、HIVを完全に排除するにはこれが0になる必要があります。
では、半減期44.2ヶ月で1,000,000個の細胞が0(1以下)になるには、いったいどのくらいの時間が必要でしょうか。
単純計算してみますと、
1,000,0000⇒500,000 44.2ヶ月(1回目の半減期)
500,000⇒250,000 44.2ヶ月(2回目の半減期)
250,000⇒125,000 44.2ヶ月(3回目の半減期)
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・・・・
1.9⇒0.95 44.2ヶ月(20回目の半減期)
となって、20回目の半減期でやっと感染細胞は1以下となります。44.2ヶ月×20回=884ヶ月となり、実に73.4年もかかる計算になります。
つまり、理論上はARTを73.4年継続すればHIV感染症は完治できます。
むろん、実際問題としてこれは机上の計算であり、患者が生存中に完治することは不可能です。現状では生涯治療となり、ART継続が必要となります。
しかし、現在もなお世界中で抗HIV医療は研究されており、いつか本当に完治出来る日が来ることを信じたいと思います。
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