HIV・エイズに関する専門書を読んでいると、「プライマリ・ケア」と言う言葉が非常によく出てきます。

今回はHIV・エイズにまつわるプライマリ・ケアについて私が調べたことをあなたにお伝えしたいと思います。あなたのHIV検査、エイズ予防にお役立て頂ければ幸いです。

◇プライマリ・ケアとは?

あなたはプライマリ・ケアと言う言葉を聞いたことがありますか?一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会のホームページでは、次のように説明されています。

『身近にあって、何でも相談にのってくれる総合的な医療』

つまり、あなたが風邪を引いたとき、お腹が痛くなったとき、高血圧や糖尿病になったとき、真っ先にお世話になる病院のことだと思って頂ければと思います。掛かりつけの病院、という感じですね。

もちろん、病気の時だけではなく、インフルエンザの予防接種や健康診断、あるいは精神的な悩み相談まで含めた広範囲の医療を指します。あなたも私も、日常の医療としては圧倒的にプライマリ・ケアのお世話になっているはずです。

これに対して、例えば夜中に脳卒中で倒れて緊急治療が必要だとか、臓器移植や骨髄移植のような高度で専門的な治療が必要な場合、あるいは非常に症例が少なくて治療が困難な病気、特殊な検査が必要になる場合などは、あなたの身近な病院では対応できないでしょう。

こうした場合にはもっと高次な医療機関が必要とされます。そして、抗HIV治療もまたエイズ診療拠点病院なる専門の医療機関が存在します。

さて、冒頭にも書いたようにHIV・エイズ関連の専門書に度々プライマリ・ケアとのかかわりが出てきます。それは、確かに抗HIV医療を行うのはエイズ診療拠点病院ではあるけど、プライマリ・ケアとの連携が不可欠である、との視点が書かれています。

この点を今回取り上げてみたいと思います。

◇プライマリ・ケアに期待されることは?

では、あなたの最も身近であなたの健康を診てくれるプライマリ・ケアと、HIV・エイズとのかかわり、すなわちプライマリ・ケアに期待されることとは、いったい何でしょうか?

それは次の2点です。

1.HIV感染・エイズ発症の早期発見

2.抗HIV治療を受けている患者の日常診療

この2点です。

どの本を読んでもこの2点がHIV・エイズとプライマリ・ケアのかかわりとして重要であると書かれています。

1番については当サイトでも度々書いてきました。これ、とても大事なことですね。

万一あなたがHIVに感染しても重篤な、特別な症状が出ることはありません。何かの症状が出たとしてもいきなりエイズ拠点病院へ行くことはまずないでしょう。まずはプライマリ・ケアから始まることが考えられます。

例えば、あなたに原因不明の発疹が出た時、あるいは帯状疱疹が出たとき、近くの掛かりつけの病院へ行くでしょう。それはもしかしたら、HIV感染の初期症状かも知れません。可能性はとても小さいでしょうが、もしもHIVに感染していれば早期発見が何より大事です。

そうした小さな可能性も考慮してプライマリ・ケアの現場では患者に向き合って欲しいと、専門書には書かれています。

しかし、これは私自身の経験から言えば、現状ではきわめて難しいと思います。むろん、泌尿器科や婦人科で梅毒感染やクラミジア感染が見つかれば、それはほとんどの医師はHIV検査まで行うでしょう。

あるいはエイズ指標疾患に挙げられているニューモシスチス肺炎やカポジ肉腫を診察すれば、それはHIV感染を疑うことでしょう。

しかし、頭痛、下痢、発熱、関節痛からHIV感染を疑う医師はあまりいないと思います。私が全身の発疹、帯状疱疹、原因不明の頭痛、発熱で病院に行ったとき、どの病院でもHIV検査の話は何も出ませんでした。

ただ、私自身はHIV感染の可能性がある行為を行って数ヶ月後だと分かっていたので、極度のHIV感染疑惑に陥りました。しかし、私を診察した医師はそんな事情を知りません。また、私の口から医師に伝えることも出来ませんでした。

つまり、HIV感染を初期に見つけることをプライマリ・ケアに期待するとは言いつつも、あなたご自身がHIV感染に対して危機感を持たないと難しいと思います。

2番目のHIV感染者に対する日常診療はまさにこれからの課題ですね。つい先日も高知市内でHIV感染者が風邪の治療で町の病院へ行ったら診察を拒否されエイズ拠点病院へ行くよう言われたとニュースになっていました。

かつて致死的疾患であったHIV感染症は、今や慢性疾患に近い状態であり累計のHIV感染者もとうに2万人を超えて増え続けています。

抗HIV治療が順調な予後であれば、患者は2ヶ月に1回とか3ヶ月に1回の通院で日常生活を送れます。そうなるとただの風邪、腹痛などはどうするか?わざわざ遠い、待ち時間の長いエイズ拠点病院まで行くか?いえ、出来ればすぐ近くにあるプライマリ・ケアで治療して欲しいと願うのが自然でしょう。

また、エイズ拠点病院にしても、本当に拠点病院でしか治療出来ない患者のみを診たいはずです。拠点病院とプライマリ・ケアのすみわけ、役割分担はこれからますます重要な課題だと思われます。

特にこれからHIV感染者の高齢化と言う課題も出てきます。これはエイズ拠点病院だけでは十分な対応が出来ない課題でありプライマリ・ケアとの連携は必須となります。


◇あなたに気を付けて欲しいこと

プライマリ・ケアにおける皮膚科の医師が発疹や帯状疱疹からHIV感染を疑い、泌尿器や婦人科の医師が性感染症の既往歴からHIV感染を疑う、こうしたことは期待できると思います。

しかし、繰り返しますがHIV感染の初期症状はただの風邪や体調不良と見分けがつかず、あなたを診察した内科医がHIV感染を疑うことはまずないと思います。

HIV感染の可能性があるような行為に思い当たるのか?心当たりがあるか?それを分かっているのはあなただけです。くれぐれも早期のHIV検査は救命的検査であることを忘れないようにしてください。

なお、HIV・エイズとプライマリ・ケアについて書かれた本は多数ありますが、私が読んだ本の一部をここにご紹介します。関心のあるあなたはどうぞ。

●HIV感染症診療マネジメント 医薬ジャーナル社

●HIV/AIDS患者のトラブルシューティングとプライマリ・ケア 南山堂

●HIV感染者の早期発見と社会復帰のポイント 医薬ジャーナル社

●Visual Dermatology(2011) 秀潤社

●これでわかる HIV/AIDS診療の基本 南江堂

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