エイズ指標疾患の1つに、ヒストプラズマ症があります。
この病気は真菌(カビの一種)であるヒストプラズマ・カプスレータム(Histoplasma capsulatum)を原因とする感染症です。
健康で普通に免疫力のある人なら、感染しても症状なしか、あるいは軽い症状が出ても2週間もすれば自然治癒します。
しかしHIV感染による免疫不全状態で感染すると播種性ヒストプラズマ症となる場合があり、未治療の場合は命を落とすこともあります。
では、今回はエイズ指標疾患の1つであるヒストプラズマ症について説明しましょう。
◇ヒストプラズマ症とは?
冒頭にも書きましたが、ヒストプラズマ症はヒストプラズマ・カプスレータム(Histoplasma capsulatum)による感染症です。
私が調べたところによると、病原菌であるヒストプラズマ・カプスレータムは二相性の真菌です。
二相性真菌とは、異なる培養環境によって酵母型と菌糸型の2つの集落性状を形成する真菌のことを言います。
こういうのって真菌では珍しいのでしょうか。
ヒストプラズマ症は日本ではほとんど知られていないと思うのですが、主に北米大陸のミシシッピー河上流域に流行しています。
従って日本から渡航歴のある人が感染したり、海外から菌が持ち込まれて感染します。
HIV感染者においては免疫不全による日和見感染症として発症します。
日本国内の感染例は非常に少なく、エイズ指標疾患として報告されている件数は以下の通りです。
●1985年~2015年の報告(エイズ動向委員会資料による)
・日本人 3件
・外国人 3件
合計でもわずかに6件のみエイズ指標疾患として報告されています。
最後の報告は2009年で、それ以後は1件も報告されていません。
では次に、ヒストプラズマ症の感染ルートと症状、治療法について説明しましょう。
◇ヒストプラズマ症の感染ルート・症状・治療法
まず感染ルートですが、そもそも真菌であるヒストプラズマ・カプスレータムは土壌の中にいます。
それも、鳥やコウモリの糞で腐敗した土壌を好んで生息しています。
その土壌を人間が耕したり掘り起こしたりすると、ヒストプラズマ・カプスレータムの胞子を吸い込んで感染します。
主な症状としては、
●発熱
●全身の倦怠感
●体重減少
●呼吸器症状
●皮膚病変(紅斑・丘疹・水泡・潰瘍など)
こうした症状が出ます。
エイズ指標疾患としてのヒストプラズマ症は、
●全身に播種したもの。
●肺、頸部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの
と決められています。
健康な人がたいてい自然治癒するのに比べ、HIV感染者では進行性播種性ヒストプラズマ症と呼ばれる症状を発し、病変が肺以外の全身に及びます。
例えば大腸など消化器系に潰瘍を起こして出血することもあります。
進行性播種性ヒストプラズマ症は未治療だと死に至ります。
どのくらい免疫力が低下するとヒストプラズマ症を発症するのか調べてみると、HIV陽性者のCD4数が150/μL~100/μL以下になると発症しやすくなるようです。
ここまで免疫力が低下すると、他にもサイトメガロウイルス感染症、クリプトコッカス髄膜炎などの日和見感染症もリスクが高まります。
ヒストプラズマ症の治療は症状に応じて、
●アムホテリンBリポゾーム
●イトラコナゾール
などの抗真菌薬を使用します。(量・頻度・投与方法は症状による)
◇まとめ
では最後に今回のお話を簡単にまとめておきます。
ヒストプラズマ症は、
●病原菌は真菌(カビの一種)であるヒストプラズマ・カプスレータム(Histoplasma capsulatum)
●主に北米大陸のミシシッピー河上流域に流行している。
●全身に播種したもの、肺、頸部、肺門リンパ節以外の部位に起こったものがエイズ指標疾患に指定されている。
●日本国内でエイズ指標疾患としては過去に6件(日本人3件、外国人3件)が報告されている。
●主な症状としては、発熱、全身の倦怠感、体重減少、呼吸器症状、皮膚病変(紅斑・丘疹・水泡・潰瘍など)
●HIV陽性者においてはCD4数が100~150/μL以下になると発症リスクが高まる。
●治療には抗真菌薬を症状に応じて使用する。
以上、エイズ指標疾患の1つであるヒストプラズマ症をご紹介しました。